面白い演劇を作るには?

面白い演劇を作るには?

2023/11/05

こんにちは、人間の条件という演劇団体を主宰しております、ZRと申します。

劇団綺畸に2017年に入団して役者や作・演出を2年間やってました。2019年に綺畸を卒業してすぐに人間の条件を立ち上げ、今に至るまで活動を続けています。

どういう作品を作っているか、詳しくはこちらのポートフォリオをご参照ください。

ざっくり言えば、「言葉よりも、物言わぬ身体こそがもっとも雄弁にドラマを現実化する」という立場の元、「ドラマを抱えた美しい風景」を立ち上げることを目指して活動しています。最近は歌舞伎や人形浄瑠璃の翻案作品を発表し、現在は坂口安吾の『桜の森の満開の下』という小説の演劇化に取り組んでいます。

今回は、駒場演劇祭主催の平田隼大さんにお願いされて、「先輩として、下の代に言いたいこと」というテーマでコラムを執筆させていただきます。もう、何を言ってもどこかしらから反感を買いそうなテーマなので、思い切って「面白い演劇をつくるには?」というテーマで書かせてもらいます。ちょっと説教臭いかもしれません!すみません!

主には、作・演出をする・したい人向けのものですが(本当は作・演出は分けて考えるべきですが)、俳優やスタッフにもあてはまるところはあると思います。そういう方々はうまいこと読み替えながら、「自分のセクションで考えるとこれはつまりどういうことだろう」と考えながら読んでみてください。また、演出の目線(≒作品を俯瞰する目線)を持っている俳優・スタッフはめちゃくちゃ貴重で、演出家にとって大変ありがたい存在なので、知っておくと良い作品作りに貢献できること間違いなしです!

インプット!インプット!インプット!

面白い演劇を作るために必要なもの。

それはもう、インプットです。

とにかくインプットです。

一にも、二にも、三にもインプットです。

でも、漫画、アニメ、映画、小説だけではダメです。

絶対に、絶対に、絶対に、演劇をたくさん見てください。あと、できればそのほかの舞台芸術(ダンス、古典芸能、オペラ、ミュージカルなど)も観てください。あとは、演劇論・有名戯曲を読んでください。そこら辺の劇団がやってるワークショップは質が低いものの方が多いので、見極められるようになるまではそんなに行かなくていいです(人間の条件のには来てくださいね!笑)。

高校演劇も含む僕の経験でいうと、演劇を見たことはないが、手軽に始められる創作物として演劇を始めた、という人は世の中にたくさんいます。これ自体は悪いことではありません。僕もそうでした。そしてそのまま、これまでに見ていた面白いアニメや映画を真似た演劇を作り始めます。これは、往々にして失敗します。面白い演劇を作ろうと思ったら、まずは面白い演劇(と、つまらない演劇)をたくさん見る必要があります。「おいしい和菓子を作りたい!」と思っているのにおいしいケーキをたくさん食べている人がいたら、「まずは和菓子メインで食べるべきじゃない?」と思いますよね?それと同じです。ある程度おいしい和菓子を作れるようになったら、ケーキの作り方を学んで、和菓子の作り方を再考していけばいいのです。

あと、僕が演劇を見始めた頃のことを思い出すと、「これは…普通に5000円ぐらい金とってるし…おもしろい…のか?」みたいな演劇を見る機会がありました。そんなときは、「おもしろい」でも「つまらない」でもなく、「わからない」という区分にとどめておきましょう。もうどうしようもなくつまらないものはつまらないとわかりますし、面白いものははっきりと面白いとわかります。しかし、この「わからない」は将来とても役に立つ可能性があります。僕は大学一年生のときに鈴木忠志という演出家の作品を吉祥寺シアターで見ました。正直、「これって何が面白いんだ…?」と思ってしまったのですが、今となっては僕の演劇を語るうえで鈴木忠志の存在は絶対に欠かせない存在になってしまいました。「わからない」は「つまらない」ではありません。

また、「わからない」ことを過剰に悩む必要はありません。作家の技術が未熟なだけの可能性もあるからです。すでに評価されている作家・作品だった場合は、その人が書いた本や、その人が言及している先行作品、その作家についての評論に触れていけば、少しずつ分かる範囲が増えていきます。悩む必要はありませんが、わかりたければこれは辛抱強く続ける必要があります。ちなみに僕もいまだに、見たけど全然よくわからない演劇に出会うことはしばしばあります。

このようにして、いろんな演劇、いろんな言葉に触れるうちに、自分が何を面白いと思うのか、何を美しいと思うのかが分かってきます。それがあなたの作家としての美意識です。これがあなたの創作を突き動かすロジックになるはずです。それは、あなたしか持つことができない宝物です。それを大事にしてください。

演劇というメディアに自覚的になる

多くの演劇を見る中で、そしてその他のメディアの作品を見る中で、演劇というのがどういうメディアなのかに自覚的になっていくことを目指しましょう。

演劇を始めたばかりのころは、アニメや映画とのアナロジーで演劇を考える人が多いと思いますが、それぞれのメディアにはそれぞれの得手不得手があり、それを自覚しておく必要があります。

演劇が最も不得意なことは複製して持ち運ぶことですが、これはいったん置いときましょう。

作品を作るうえで誰もが直面するであろう、演劇くんが苦手なことは、場所の転換です。これが明確に・かつ自然に説明できるようになっただけで、作家・演出家としてはかなりのステップアップです。面白い演劇を見て、何気なくなされている俳優の動き・台詞・舞台の使い方・音響・照明、これらがその作品をどれほど見やすくしているかに意識的になってみてください。

余談ですが、僕は、劇団綺畸の同期の舞台監督で今は人間の条件の広報を手伝ってくれている近江くんに「机と椅子が出てくる演劇って、基本おもろくなくね?」と言われたことがあります。「そんなバカな」とも思いますが、ある意味これは正しいと思います。机と椅子を舞台に出しながら、同じ空間に違う場所を立ち上げようとする場合、多くの場合はその机と椅子をどかす必要があり、その段取りのために芝居のリズム感が損なわれていきます。そして机と椅子というあまりにも簡単に舞台での「いかた(存在の仕方)」への安易な解答を与えてくれる道具に頼っていると、どんどん動きのない芝居になっていきます。これは、演劇というこの不便なメディアの性質に深く結びついた話だと思っています。

アウトプット!

まだ作品を作ったことのない人が「俺には傑作の構想がある。でもこれを実現するにはまだインプットが足りないからしかるべき時期を待とう」と考えていたとしたら、これはめちゃくちゃ危ないです。一生面白い作品が作れない可能性が高いです。

作品を発表するのはもちろんとても怖いことです。でも、どんなに小さなものでも、どんなに面白くなくてもいいので、最初から最後まで、いったんは完成と言えるような作品をつくって、ほかの人に見せて感想をもらってください。

平田オリザ(という有名な劇作家・演出家)は、初めて戯曲を書く人は以下のような制限で書いてみることをお勧めしていました。(細かい数字はうろ覚えです)

  • 場所や時間が飛ばないこと

  • 上演時間20分以内

  • 登場人物3人以下

これは僕もおすすめです。複雑なことは考えず、まずはただ人間同士の会話というものを書いてみる、それを声に出して読んでみる、それに感想をもらう、というのは、これからどのような戯曲・演劇作品を作っていくにしても重要なことです。

今回の駒場演劇祭、僕は勝手に「あなたの最初のアウトプットを全力で応援します!」という姿勢を感じています。これはめちゃくちゃチャンスです。とりあえず作って、出して、フィードバックをもらう。存在しない大傑作よりも、存在する小品のほうがはるかに価値があります。0は1に絶対に勝てません。そしてこの小品が、後の大傑作につながる可能性を生むのです。

信頼できる編集者を見つける

これは多分に運を含みますが、信頼できる編集者を見つけられたら、創作のレベルは格段にアップします。信頼できる編集者とは、信頼できるフィードバックをくれる人です。作品をけなすことではなく、作品をもっとよくするためにどうすればよいかを本気になって一緒になって考えてくれる人です。その人が創作というものについて造詣が深ければベターですが、ただ親切心で話を聞いてくれるだけの優しい人でも全然有効です。ほかの人に話すうちに考えがまとまることもありますし、その人が投げかけたふとした言葉が解決の糸口をもたらすこともあります。

僕は、編集者を持つことが、よくある「脚本が書けない…」という悩みに対する一番有効な対策だと思っています。信頼できる編集者と、週に一度30分だけでも、作品について話すうちに考えが整理されたり、新しいアイディアが生まれてきます。どんなに話すことがなくても、全然書けてなくて苦しくても、必ず定期的にその時間を持つことが大事です。

絶対にきもちよくならない!

これは特に演出をやってみる人に向けて、僕がもっとも強く言いたいことです。

演出家は、なぜか安全地帯から偉そうに俳優の演技にケチつけることが許されている、と勘違いしてしまいがちです。その結果、たいして作品のことを理解しているわけでもないのに俳優の演技が気に入らないと偉そうに「ダメ出し」をして、無意識のうちに「自分は何が良いのかわかる優れた人間なんだ」ときもちよくなっていったりします。

確かに、演出家と俳優は、対等ではありません。なぜなら、演出家の仕事は「決めること」だからです。スタッフや俳優と話し合いながら、どのような上演を行うのか、都度都度決定していくことが仕事であり、その権限を握っています。でも、それは演出家が偉いからではありません。ただそういう役割だから、というだけです。

チームが登るべき山の頂(つまり、その作品が実現する価値)をメンバーに共有すること。そのうえで、その山を登るためにはどうすればいいかをメンバーと一緒に考え、道筋を決めていくこと。これが演出家、そしてリーダーの仕事です。決して俳優の演技の評論家になることが仕事ではありません。

そして、これはとても難しい仕事です。僕もいまだにうまくできません。

そうなったら、チームのメンバーと一緒に、たくさん悩んでください。チームのメンバーも、リーダーが悩むことを受け入れてあげてください。

最後に

長くなってしまいましたが、全然大事なことが書ききれている気はしません。

でも「先輩として後輩にいいたいこと」は結局、たくさん悩みながら、楽しく演劇を続けてほしい、ということだと思います。そのためには、面白い演劇を作ってお客さんを楽しませることができること、というのが一つの続けるための大きなポジティブ要因になると思います。

演劇(Play)は遊び(Play)です。でも僕は、これが人生を賭ける価値のある遊びだと思ったので、大学を卒業しても続けています。

この面白さをぜひ、もっと広い幅で、もっと深く、作る側でも見る側でも、味わい続けてください。

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あと、11月11,12日に「条件のスケッチ」というイベントをやるので、ぜひ見に来てください!(マーキュリーの現役の方々は思いっきり日程かぶっちゃっててすみません…)イベントの詳細はこちらにまとめてありますが、特に皆さんにお勧めしたいのは「セッション 身体ってなんなん? ~人間の条件の場合」というイベントです。演劇が、演劇としての面白さを追求しようと思ったら、身体について考えざるを得なくなる、と僕は思っています。それがなぜか、そしてそもそも「身体」とはなんなのか、かなり丁寧に解説しますので、ぜひお越しください!そのほかのイベント含めて一日スタジオに滞在することが可能なのにたった1500円なので、かなりお得だと思っています!

ご来場お待ちしております!